特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望
第13章 ヒステリー理論の推移—特にクレッチュマーのヒステリー論
内村 祐之
1,2
1東京大学
2財団法人神経研究所
pp.770-779
発行日 1971年8月15日
Published Date 1971/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201788
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クレッチュマーのヒステリー論のヒントとなったもの
前章まで,12章にわたる展望のあとを振り返って見ると,神経症についての紹介が少なかったようである。第4章と第5章とで,ババンスキーやジャネやフロイトらについて語ったけれども,その後発表された神経症に関してのおびただしい文献に触れるところは,ほとんどなかった。他の章の多くは,精神病と神経症とを含めた精神医学的構造論にかかわるものであって,その中で随時,神経症も問題にしたとは言え,全体として狭義の精神病に重点を置いていたように思う。そこで私は本章以下の3章を,神経症を中心とする代表的業績の紹介に当てようと思うのである。本章ではまず,ジャネとフロイトとの著作と並んで,ヒステリーについての名著として広く知られているクレッチュマーのヒステリー論を中心として,ヒステリー理論のその後の推移を辿って見ることとしよう。
そもそもクレッチュマーがヒステリーに関心を持つようになったのは,1914年に勃発した第一次世界大戦において,おびただしく発生した戦争ヒステリー患者を,若い医師として親しく観察したためであるようだ。彼の著書の中には,戦時中の経験が繰り返し語られている。そして事実ヒステリー研究は,第3章のババンスキーの項でも,ちょっと触れたように,この大戦の経験によって大きく進歩したのである。
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