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精神病理学の勃興
本展望の初章以来述べてきたところからも明らかなように,近代的精神医学における構造論は,主として自然科学的,生物学的の基盤の上に組み立てられたものであった。脳病理学の進歩によって,脳障害に由来する精神疾患の構造についての理解は大いに深められ,また遺伝学や体質学,それにこの体質学と関連をもつ性格学などの方面の研究も進んで,内因性精神病や機能性精神障害の発生や構造に対する理解も深められた。フロイトの精神分析を,生物学的本能論と見ることさえもできるのである。しかもこの立場に立つ研究者は各自の立場から新しい作業仮説を立てて,その立証に努力したのであって,それは期待に満ちた楽しい時期であった。このような潮流は近時いささか停滞を余儀なくされているかに見えるが,しかし依然として1つの隠然たる底流を形作っている。
ところが,このような,人間に現われる精神症状の多くの部分を,動物的機能の特に分化した変様として取り扱おうとする純粋医学的立場に対し,行き過ぎのないようにとの反省と警告との声が絶えず発せられたこともまた事実である。精神異常を人間学的に把握するという見地に立った試みが,追々と盛んになってきたのも,その1つの現われと見ることができるし,また見出された身体所見と精神症状との間の関係付けを,1つの有意義な可能性とは見ながらも,両者の間の真の関連を認めることに対して極度に慎重な人々がいるのも,それを証するものであろう。そしてこの後の立場は,厳正な認識論の上に立つ精神病理学者の拠って立つ立場であって,これらの人々は,ただに身体所見のみならず,遠い過去の体験を現存の精神症状と因果的に結び付けようとするあらゆる思弁に対しても,はなはだ懐疑的である。そして彼らは事あるごとに主張する,精神異常を正当に取り扱うことのできるのは,ただこの種の純正な精神病理学のみであると。
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