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I.まえがき
双生児の出産頻度はそれぞれの地域によって異なり,出産144回ないし170回につき1組とか,生産211回につき1組とかいろいろにいわれているが,単胎にくらべてはるかに少ないことは事実である。平均より稀なもの,偏っている存在,特殊な現象に対して人間の示す反応,とりわけ,受胎や出産や疾病のからくりが未知の闇深く沈んでいる社会でひき起こされるであろう反応はわれわれにも推測できる。おそらくそれは超自然と関係づけ神聖視され,あるいは魔力をもつ不吉なものとして取り扱われるにちがいない。
われわれは過去17年間双生児児童の追跡調査を続け,双生児相談室を開いて双生児の問題を取り扱ってきたが双生児や家族との継続的な深い接触によって,現在青年期に達している彼らの相当数が双生児についていわゆるコンプレックスを持っていること,また双生児に対する家族や社会の態度が双生児の人格発達にさまざまの影響を与えていることなどを見出した。われわれの取り扱った双生児は大多数が心身健康な児童であったが,双生児自身面接や質問紙によって,「世間の人は双生児をやはり,かたわと思っているのでないか」(二卵性,女,16歳),「動物的だと感じている」(一卵性,女,14歳),「珍しがって見世物みたいに見る」(一卵性,男,11歳),「変な眼で眺められるからいやでたまらない」(異性,10歳)というような答があり,彼らの母親も面接回数が重なるにつれ,「姑にうちの家系には双生児の筋(すじ)はないと責められて肩身が狭かった」(荒川区,青果商の妻),「世間態が悪いから1人を養子に出せと夫や舅たちにいわれ,泣く泣く養子にやった」(江戸川区,工員および札幌市,公務員の妻その他),「双生児を妊娠しているらしいとわかってからは舅たちにあまり外に出ぬようにといわれ,出産も自宅でといわれた。1人がどうにかなればよいと望んでいたらしい。二卵性双生児であったので,これはまったく母親の責任であり,しいては母の実家にも責任があるとして実家の母まで非難された。実家も申し訳ながって双生児の1人を学齢期まで実家で養育した」(静岡県,医師の妻),「双生児らしいとわかったとき,夫の妹たちは身ぶるいして犬や猫みたいとささやいていた」(埼玉県,医師の妻)というような陳述を行なっている。英国のBurlingham, D. はその著書のなかで子供たちはエディプス状況の失望からしばしば双生児を持つことを白昼夢の内容とし,母親たちは経済的困難のある場合や少数の例外を除いて,双生児の出産を喜び,興奮,誇りをもって迎えると記しているが,そのような反応がわれわれの症例に認められることは少なかった。
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