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I.はじめに
双生児法は家系研究とともに臨床遺伝学の古典的,代表的な研究方法であり,分裂病の病因論の解明に大きな寄与を果した。分裂病双生児の系統的研究はLuxenburger(1928)の研究に始まり,Rosanoff,Essen-Möller,Kallmann,Slaterらの研究,日本における井上,満田らの研究によって,分裂病の病因が遺伝であるという仮説を支持する結論が得られている。
しかし1960年,アメリカのD. Jacksonによって,力動精神医学の立場から,ふたご,殊に一卵性のふたご(MZ)はその特殊な心理的関係のため分裂病に対する特別な危険性があるとして,分裂病の遺伝因,ひいては双生児法についての方法論上の疑念が出された。Rosenthalはこれまでの双生児研究の問題点,MZの一致率が高すぎること,性による一致率の違いのあることなどが,資料の集め方の偏り,分裂病の診断基準のあいまいさ,卵性診断の不正確さに基づくものであるなどの建設的な批判を行ない,研究方法としての双生児法の有効性を指摘した。
1960年代から70年代にかけて発表された北欧の諸研究はいずれも双生児登録によるものであり,これらの研究の結果はMZの一致率が30%前後でこれまでの研究に比べて低率であったが,MZの一致率は二卵性のふたご(DZ)の数倍あり,遺伝説を否定するものではない。
またSlater,井上らによって,別居のMZの研究が行なわれ,別居したことのないMZの一致率との間に有意の違いのないことが明らかにされ,分裂病の遺伝説に確実な根拠を与えた。
1960年代には従来の家庭研究における遺伝因と環境因を分離するために養子法が工夫され,その研究の成果は分裂病の病因の遺伝説を裏付けることになり,双生児研究の有用性を再確認する結果となった。
分裂病が1つの疾患単位ではなく,症候群であれば,双生児研究は,病因としての遺伝と環境の働き方に従って,分裂病の異種性を解明し,疾病論に寄与することができる。井上は双生児研究から病因論的に分裂病を分類し,3型に分けている。
一方双生児法は,遺伝子型とともに働く環境要因の客観的分析に役立つ不一致例や,症状や経過に違いのある不完全一致例の比較分析から,遺伝子型から分裂病に至る発病過程やその後の経過を実証的に知りうる可能性がある。日本における井上,満田らの研究や,1960年代からアメリカのNIMHで行なわれている不一致のMZの研究はその意味で興味深い。
分裂病双生児に関しては,すでに井上21,24,26,27,30)(1957〜1973),満田48,49)(1957,1963),Rosenthal・Kety65)(1968),Rosenthal66)(1970),Slater・Cowie75)(1971),Zerbin-Rudin83)(1971),堺68,69)(1971,1976),Diebold6)(1973),阿部1,2)(1975),Gottesrnan・Shields14)(1976)などの多数の総説の中で述べられているので,本稿ではこれらを参照しながら,これまでの主要な双生児研究の成果,双生児研究に対する批判と反論,分裂病の異種性,分裂病の病因論(発病過程)などについて展望してみたい。
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