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特集 社会のなかの精神科医
精神科医とその社会的条件
A Psychiatrist and his Social Background
岩本 正次
1
1明治学院大学社会学部
1Dept. of Sociology, Meiji Gakuin Univ.
pp.1037-1042
発行日 1970年12月15日
Published Date 1970/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201688
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Ⅰ.社会のなかの精神科医
本特集号の課題である「社会のなかの精神科医」とはただ単に,ある地域(a community)で活動している精神科医という意味ではあるまい。それがどのような意味を持っているのかを明らかにする手がかりとして,まず,なかのという格動詞の意味を確かめておく必要がある。
そこで,物質と人間との関わりの三つの様態を示す,「籠のなかの鳥」,「動物園のなかの男」,「宇宙のなかの人間」を提示しよう。「籠のなかの鳥は世界のことを知らない」と使われるように,人間がその周囲の物質を支配することによって,逆に物化されたものに自らが所有(支配)されて,物化され閉じられた世界のなかに転落し,主体性を見失い,世界性を喪失してしまう様態である。しかし,自らは,閉じた世界の主人公であることを疑わず,自らの姿を周囲に誇示している状態である。「動物園のなかの男」は,人間が物質(檻)に取り囲まれ,身動きできないが,そのなかに所在し,周囲の世界に働きかけて関わりを持つことを断念せざるをえないが,かえって,外界を純粋にながめかける様態である。そこに発見できるのは,自らとかかわりのない物化した世界であるが,それは矛盾に満ちたカリカチュアであり,批判の対象としての世界である。つまり,主体性は停止しているが,世界性は開示され保持している状態である。第三の「宇宙のなかの人間」は,みずから自身,周囲の世界と同格の物質そのものであることを発見し,周囲に働きかけ(実践)ることにより主体性を確立し,世界性を開示する様態である。
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