綜説
長寿を阻むもの—成人病と社会的条件
辻 達彦
1
1群馬大学医学部公衆衛生学教室
pp.53-57
発行日 1963年2月15日
Published Date 1963/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202625
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この頃徳川家康の伝記小説が経営者間にブームをおこしているそうです。私も歴史上の人物には興味がありますが,それも成人病という観点からで,金もうけとは関係がありません。家康は74歳で当時としては珍しいタイの天ぷらにあたってしばらく病んでなくなっております。どうも症状から胃ガンが疑われているようです。とくに史家が惜しんでいるのは武田信玄の急死でありまして,三方ケ原で家康,信長の連合軍を破って上洛の途中発病したといいます。これも記録によると胃ガンのようです,一方,信玄の好敵手であった上杉謙信も48歳でなくなっていますが,厠で倒れたということで脳出血と考えられます1)。
このように歴史上の知名人についてはかなりのことが判っております。公衆衛生院の進藤博士のご研究によると2),とくに長命であるのは僧侶と神官であり,その他の政治家,武人などに分けてもあまり寿命には差がありません。また年代的にみますと江戸時代に入るまでの方がやや長命の傾向があり,この現象はヨーロッパのそれと逆であることを指摘しています。阪大の丸山教授3)の古文書からの調査によりますと,春日神社の19社家の家系譜から過去10世紀にわたる上流階級の寿命が推定されております。この場合でも17世紀以前の方が長寿者が多く,江戸時代に入ると平均50歳台となっています。
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