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I.はじめに
Para-Chlornitrobenzene(以下pCNBと記す。第1図)は主として染料例えばBrilliant Indigo 4 Bや医薬品,フェナセチン,Dultinの製造過程の中間体として用いられるベンゾール誘導体の一つである。その性質は水には溶けないが熱・アルコール・エーテルに溶ける1)。このうちアルコールに親和性を有することは飲酒が中毒を促進するので注意しなければならない点である。許容量は1ppmとされている10)。中毒量は不明であるが,動物実験では600ppm,10分間で中毒を起こしたとの報告があり,人体例ではDuhringの法則に従って小児(2年1カ月)例で60〜240ppmを10分間または20〜240pppmを2時間で中毒を起こしたという報告がある1)。pCNBによる健康障害で重要なものは,粉塵または蒸気の吸入および皮膚からの侵入による中毒であり,その中毒作用は芳香族ニトロ化合物と類似しているが,作用はニトロベンゼンよりも強いとされている。作用機転はpCNBが体内に吸収されるとMet-Hb. が構成され,生体の酸化・還元機構の障害を起こし,直接的あるいは間接的に造血器系の障害・神経系障害・肝障害をきたし2)4)5),さらにその影響は蓄積的とされている。臨床症状は急激に始まる頭痛・嘔吐・胃腸障害・心悸亢進・意識喪失・けいれん・チアノーゼなどであり概して重篤・な症状を呈するが,この急性期に適切な処置を施こせば大体予後は良好とされている2)3)。そのために保安管理の徹底は言をまたないが,ひとたび発症した場合には適切な処置が予後に大きな影響をおよぼすことを十分念頭に入れておく必要がある。pCNB中毒の症例は1950年頃から注目され,現在では重要な職業病の一つになっている。急性期の身体症状・血液学的所見についての報告は散見するが1)3)6)9),その後遺症としての精神神経症状の報告は見当らないように思う。われわれは急性pCNB中毒後遺症の2例を経験したので報告する。
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