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I.はじめに
すでにわれわれは,罹病期間3年から26年におよぶ30例の入院陳旧精神分裂病患者に,Chlorpromazine(以下CPと略す)からそれと同量の新しく開発されたPhenothiazine誘導体,APY-606に切りかえた後の臨床効果について,日常生活面における各種作業療法適応との関連において検討した1)。その結果,40日間の治験期間を通じ,19例はCP投与時に比し特別の変化がみられず,変化のみられた11例中2例では退院ないし外勤作業にまで参加可能となり,またのこり9例では症状悪化ないし副作用がみられた。これらの悪化例では,本剤に切りかえてから2週間前後から脱力感,倦怠感,不眠などがあらわれ,まもなく不安感や焦燥感をともなうが,これらは副作用というより,本剤に変更したために起きた精神症状そのものの変化と思われた。そして結論として,陳旧精神分裂病の症状安定化作用に関しては,APY-606はCPに比し,同量用いた場合にはやや弱いものと推定された。
しかしながら約2/3の例(30例中19例)においてCP投与時と同様に日常生活面における行動や接触面における変化のみられないことは,次の二つの可能性を示唆しているものと思われた。すなわち,その一つとして,APY-606は陳旧精神分裂病の場合,CPと類似の行動面および情動面への作用を有しているのではないかということ。第2に,両薬剤ともこれらの例においてはその精神症状,ないし行動面に対し,なんら本質的作用を有していないのではないかとも考えられること。この二つの可能性につき,さらに解析するためにinactive placeboによる二重盲検法も考えられたが,対照群に入る症例においては,症状悪化や生活療法場面における患者の利益がそこなわれることが予想された。
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