Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅵ.KraepelinのVerrücktheit
Kraepelinが27歳のとき,すなわち1883年教科書の初版である「精神医学便覧」(Compendium der Psychiatrie)が公けにされた38)。この版での妄想論は,いかなるものであったであろうか。
彼は,Verrücktheitの言葉を用い,その原発性のものと続発性のものとに分けた。「Verrücktheitと呼ばれるものは,精神人格の持続する徹底的な変化であって,主として外的な,また内的な諸々の印象の病的な解釈と加工がみられる。この変化は,かつての感動や一時的なProzessにもとづくものではなく,精神生理学的な生体全体の異常にもとづいているので,持続するのが普通である。意識は,清明で濁っておらず,自覚も完全に保持されている。しかし,経験の素材となるものは,複雑な主観的な要因で変質し,病的にひねくれて,狂ったものの見方によって,周囲も自分自身も加工される」。そして偏執的な体系が形成され,「固定せる妄想観念は,妄覚やたんなる不機嫌のような孤立した病的な症状でなく,むしろ全知的作業の持続する根源的な欠乏の徴候であることに誤りはない」と断じた。このVerrücktheitの窮極の「不具廃疾」(Invalidität)の根底にあるものは,原発性の,しかも生来性のものであるか,あるいは個体の発達にそくして徐々に獲得されたものであって,この状態は,別の精神病がすでに先行し,その結果生じた終末状態から区別される。続発性のVerrücktheitは精神の脆弱状態のなかで論ぜられている。また妄想体系の形成様式は,「妄覚を媒介とする場合」と「Prirnordialdelirien」をもって現われる。さらに原発性のVerrücktheitが,遺伝的な素質に依存していること,幼少時の障害も無視できないこと,さらに酒精の飲用も影響するといい,一方思春期や更年期のごとく,発育段階とこの精神障害発現と密接であるとのべた。そして予後は,きわめて不良であり,無条件に収容されねばならないとのべた。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.