外国における精神科専門医制度とその実態—スイス篇

Zur Ausbildung des "Spezialarzt für Psychiatrie" in der Schweiz

　この紹介を依頼されたとき，私は現在，専門医制度が精神医学界の論議の中心となつていること，また本誌がわが国の精神科医のあいだで非常に広く読まれており，ために本紹介が，討議のさいの資料的性格をもつことを考えて，執筆を一応お断りした。というのは私のスイス滞在は4年前のことであり，また私は経済的に1年しか留学できぬことを考えて，他のところに少し書いたが（異常心理学講座第7巻月報Ⅳ，みすず書房），一種独得な留学生生活をした。そのため私の知見には多くの欠点があり，紹介者として私は適当ではないと考えたからである。ところが他に適切な筆者がなかつたらしく，再度依頼を受けたので，スイス医師会，精神科関係者らの方がたの助力をいただいて，できるかぎり詳細かつ客観的な紹介をこころみるが，上述のような事情による多くの欠点が，まだ完全には克服されず残つているかもしれぬことを，あらかじめお断りさせていただく。

　さて専門医制度を紹介するにあたつて，単にそれのみを切り離してとりあげるなら，いくら詳細に紹介してみたところで，「多くの国でそうなら日本もその程度やらねば」といつたふうな安易な受けとられかた，あるいは悪意ある利用さえされかねない。問題はその国の医療制度全体のなかの一部として，全体との関連においてとらえられていなかつたら意味をなさない。そしてこの点で少なくとも専門医制度の前段階をなす，医学教育の実態を知つておくことは必須であると考えるので，まず以下に簡単にそれについて述べる。