連載 リレーエッセイ 医療の現場から
生きる意味を求めて―スイスにおける自殺幇助の実態
松永 優子
1
1財団法人聖マリアンナ会 東横惠愛病院
pp.1019
発行日 2012年12月1日
Published Date 2012/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541102423
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2011年8月,スイスから訃報が届いた.私がチューリッヒに在住していた頃,親しくお付き合いしていたJさんが亡くなったお知らせだった.末期がんで闘病生活をおくる彼女が,医師から余命宣告を受けていたことは,人づてに聞いていた.しかし,彼女の直接の死因となったのはがんではない.Jさんは,Exitというスイスの非営利組織に自殺幇助を依頼し,自ら死に至ったのである.
「自殺幇助」という言葉は,Jさんの死を知る前の私と同様,多くの日本人にとって,馴染みのない言葉だと思う.「自殺」と言う以上,直接死を招く行為を遂行するのは当事者であって,それを幇助するとは,自殺のための道具や場所,知識を提供することを指す.これは,日本では自殺幇助罪に当たる行為であるが,スイスでは必ずしも違法ではない.「利己的な動機から人に自殺を教唆するか,その自殺を幇助した者は,自殺既遂,未遂によらず,5年以下の禁固刑か,罰金に処す」というスイス刑法第115条が,すなわち「利己的な動機がなければ,罪にならない」と解釈されうるからである.
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