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I.はじめに
心因を「めぐる」諸問題の一つとして,私がここであえてとりあげようとするのは,内因性精神病の発病にかかわる心的要因である。しかも,幼時期の心的外傷やその他生活史上の比較的古い時点にくらいする「遠因」的な要因を問題にするのではなく,発病時点に直接前駆するところの「近因」的要因に,もつぱら焦点をあてたいと思うのである。したがつて従来の慣用の表現にしたがえば,発病契機,誘因としての心的要因,凝集因子(井村),結実因子(布施邦)としての心的要因に関する一考察である。
この主題をとくに選んだ理由はつぎのごとくである。こんにちなおもつとも支配的な見解にしたがえば,内因性精神病の場合には,かりに発病にさきだつてなんらかの心的要因が見出されたとしても,それはおおむね偶然の配列として無視されるか,あるいはせいぜい非特異的刺激として内因性精神病を「誘発」したにすぎぬ,とみなされる。本来は体因性疾患を考察するさいの視点にほかならぬ「誘因—誘発」の図式にもとづいた,以上のごとき見解が,内因性精神病の発病を論じるさいにも,場合により,はなはだ有効かつ適切な理論でありうることは,よく知られているところである。しかし「精神病理学的」には,このような見かたが検討の余地をのこすものであることもまた知られている。たとえば,近々十年,ドイツ語圏の精神病理学者がこぞつて内因性精神病の発病前状況ないしはVorfeldの分析に力をそそいでいることからも,その一端をうかがい知ることができる。かれらは好んで「状況」とか「構造」といつた難解な概念を提出してくるが,結局その狙いとするところは,「環境と人間」,「誘発するものとされるもの」といつたたぐいの二元論的な観点をできるかぎり,のりこえようとするところにある。
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