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■はじめに
児童期あるいは思春期前期に発病した精神分裂病,躁うつ病,すなわち早期発病例についての臨床的研究は,それが成人して発病したものと基本的にはそれほどの違いはないという認識から出発する。同じ疾病概念で理解しようとする早期発病あるいは若年発病の精神分裂病と躁うつ病の臨床的研究の目指すものは,早くして,若くして発病した症例の持つ特異性を検討し,解析することにある。しかし,そこで得られる所見から,ただ単に発達途上にあるものが示す病態の特徴を明らかにし,成人の場合とは異なる治療方法や治療技法を編み出すことだけを目的にしているのではない。好発年齢に達してからでなく,早くして,若くして発病したという例外例,少数例,特異例のみが持つ病態,成因の特徴の中から,その疾患すべてに共通するものを抽出し,その疾病概念を深めることを目的としている。すると必然的に,児童期,思春期前期のみの診断基準に基づくのではなく,成人の診断基準を適用し,それに合うものだけを対象としなければならないという認識が強まってくる。ただ成人の場合でも,時代を超え,文化圏を超えた共通の診断基準が確立されているわけではなかった。そのことに関連した若年発病例の診断基準や疾病理解の不一致が続いた。
精神分裂病においても,躁うつ病の場合でも,その若年発病例についての疾病概念と診断基準はDSM-Ⅲの出現によって著しく変わってしまった。というより,1960年代の若年発病の精神分裂病や躁うつ病の疾病理解についての国や学派によっての意見の相違や診断基準の不統一さは,成人における疾病概念の違いとは比較にならないほど大きなものとなってきていて,まさにDSM-Ⅲのような操作的診断システムの導入が必要な状況であったというべきであろう。児童精神医学が先に述べた理念を追求しようとすればするほど,操作的診断システムを必要とすることになった。児童期,思春期前期の精神分裂病や躁うつ病の概念もそれに基づいて再構築されなければならなくなっていた。その意味で,DSM-Ⅲによって若年発病の精神分裂病と躁うつ病の疾病理解が著しく変化したのは当然ともいえよう。ただ,精神分裂病と躁うつ病とでは,疾病概念の変化を余儀なくされる状況がかなり異なっていて,DSM-Ⅲではもちろん,DSM-Ⅲ-Rでも両疾患の若年発病例に対する態度に違いを認めざるをえない。
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