第3回精神医学懇話会 森田療法
指定討論
池田 数好
1
1九州大学教育学部
pp.720-722
発行日 1966年9月15日
Published Date 1966/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201059
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はじめに,森田神経質に対する演者の立場を明らかにしておきたい。簡明に結論を述べると,森田学説にせよ,Freud学説にせよ,それによつて,すべての神経症の形成と発展を説明しつくすことは困難である,ということである。すなわち,逆にいえば,神経症のある一群は,森田学説によつて説明することが,たとえばFreud学説のそれによるよりも,より事実に則しているということである。いうまでもなく,あらゆる学説は,あくまで,現実の事象(ここでは神経症)を,いずれがより正しく説明しているかによつて評価されなくてはならない。そうだとすると,Freudの学説,すなわちFreud機制によつて発展すると考えることによって,もつとも現実に適して説明される,広汎な神経症群がたしかにあるとともに,森田学説,すなわち,森田機制によつて発展すると考えるのがより正しいと思える一群の神経症―森田神経質―が,たしかに存在するというのが演者の立場である。
森田神経質の形成にあずかる心理機制のなかで,精神交互作用とよばれるもの,およびその悪循環を増強し,持続させる一種の拮抗作用――森田のいう“思想の矛盾”の一表現でもあるが――は,日常の臨床経験によつても,また各自の内省によつても,容易にとらえることのできる,人間心理にとつてありふれた自明の事実である。その説明のために,ある心理学的仮説を必要とする種類の特殊な心理機制ではけつしてない。
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