特集 創造と表現の病理
第63回日本精神神経学会総会シンポジウム
Ⅰ部・創造性の病理
指定討論
小木 貞孝
1
1東京医歯大犯罪心理学
pp.326-327
発行日 1967年5月15日
Published Date 1967/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201192
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千谷先生の創造性能と表出衝動の区別を機軸とするお話は,創造性の問題について根本的な現象を指摘された卓見であると敬意を表する。とくに,ゲーテにおいて2種類の創作がみられるということ,うつ病相期における内的な抑うつや人生嫌悪を意志により表出している過程などは興味深くうかがつた。このお話をうかがいながら,私の考えていたことは,同じうつ病と思われる夏目漱石の場合には事情はどうであろうか,ということである。
漱石の一生に3回のうつ病相期がみられること,その作品がうつ病体験の影を色濃く映していることについては,千谷先生も私もべつなところで述べたことがあり,ここで詳細を述べることは省略したい。ただここで問題としたいのは,漱石のめざした創造が,千谷先生のいわれる表出衝動にもとづくものであり,おそらくこの点に,近代から現代にいたる小説を中心とする文学の本質的な面が現われているということである。
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