回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・1
Emil Kraepelinの印象
内村 祐之
1,2
1東京大学
2日本学士院
pp.610-618
発行日 1966年7月15日
Published Date 1966/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201045
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
精神医学の傾向は,戦後大きな変貌を遂げつつあるが,その学説にいたつては百人百説で,まことに目まぐるしい限りである。私も,時代に取り残されないために,およばずながら文献に目をさらし,また若い諸君とも意見を交わしているが,これらの機会を通じて感じることは,おしなべて若い世代の人々が,新しい学説に目を奪われて右往左往し,歴史についての知識を落ちついて探ろうとする思いのうすいことである。なかには,古い時代の理論はことごとく書き改めるべきだと確信しているかにみえる人さえ,ある。その気慨は壮とするが,古い人がすでにくりかえし経験し,また所説として述べていることを,あたかも新発見であるかのように書きたてているのを見ると,ときに失笑を禁じ得ない。
過去のすぐれた学究の最善の努力の結晶を土台として,現在がかたちつくられているのだと知れば,将来の発展の責任を擔(にな)う若い世代の人々は,過去についての正確な知識を,より多く身につけ,現在にいたつた過程についての理解を深めておくべきだと,私は思う。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.