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本年(2006年)は,1856年2月15日に北ドイツの小邑Neustrelitzで生れ,19世紀末から20世紀初頭にかけて8版(正確には9版第1巻まで)もの改訂を重ねた精神医学教科書における内因精神病論(1883~1915,たとえば濱中 2005参照)14)と,現Max-Planck-Institut für Psychiatrie in München(以下MPIPと略:旧Deutsche Forschungsanstalt für Psychiatrie)の創設(1917)などによって,近代精神医学の基礎を築いた巨匠の一人Emil Kraepelin(1926年10月7日没)の生誕150年にあたり,またKraepelinのMünchen着任の翌年(1904)に建造されたMünchen大学精神科現本館の100周年(Hippius et al. 2005)15)に続く記念の年でもある。
生誕100年の1956年には,門下の一人でKraepelin退官後2年間主任代理を勤めた後渡米したKahn EによるKraepelinの人柄に触れた個人的回想,Kraepelinが彼流の精神医学の基礎を形成したHeidelberg大学精神科(1891~1903)の戦後の主任Schneider Kと,最後の任地となったMünchen大学精神科(1903~1922)における戦後の主任Kolle K(同年には編著“Große Nervenärzte”の第一巻にも簡潔なKraepelin評伝を執筆),そしてGruhle Hによる,必ずしも単純明快に肯定的とは言いがたい短い業績評価の他,KraepelinとFreudの対比論(Wyrsch50) 1956,Kolle 195728))しか,寡聞の筆者には知られていないが,その背景としては,当時のHeidelberg(Jaspers, Mayer-Gross etc),Tübingen(Kretschmer),Frankfurt(Kleist)における独自の学派形成や,台頭しつつあった精神療法,現象学的・人間学的精神医学の優勢な時代思潮が考えられようか。なお同じ1956年には内村がMünchenのKolleら宛で書簡を送り,KraepelinがいなければJaspersさえ「果たして出現したか否か疑わしい」と力説(上記のKolle 195727)に引用)して,Kraepelinの「生誕百年の催し」を提案し「これが動機となって」同年2月にMünchen「大学精神科の講堂で開催された記念会に招待され」,「クレペリンが力を入れていた比較精神医学に関連して「アイヌのイム」について講演したと回想録(1968)47)に述懐しているのは興味深い-もっともこの会にはドイツ内外から多数の参加者があったとも述べていて,内村自身の講演は刊行(Uchimura 1956)46)されて読むことができるのだが,他の参加者の発表は残念ながら不詳である。この他,MPIPが第二次大戦中に中断していたKraepelin金メダル賞授与を1956年に再開したことも伝えられてはいるが,受賞者がKraepelinとはかなり趣を異にする二人の精神医学者,つまりErnst Kretschmer(多次元的診断など)とLudwig Binswanger(現存在分析)だということ(Weber 2006)49)には,いささか意外の印象,少なからず運命の皮肉を感じる向きもあろう-もっともKraepelin自身は自説を強く主張しながらも,頻回の教科書改訂や,自分の疾病分類があくまで「暫定的」であると繰り返し述べ,Hoche Aによる「症状群」論(Kraepelinの「疾病単位」論批判:1912)16)をある程度は受け入れたこと(Kraepelin 1918)29)にうかがわれる通り,異なる立場と批判に対して頑に拒絶的な人柄であったわけでもないことも見逃してはならぬであろう。ちなみに彼の没後に執筆された第二次大戦前の比較的詳しい業績評価(1927年の追悼文は別)としては,Heidelberg大学精神神経科創立50周年(1929)に執筆されたMayer-Groß(臨床),Gruhle(心理学),Groß(病院精神医学),Weygandt(発達と教育学),Rüdin(社会精神医学),Aschaffenburg(犯罪学)の講演や,その10年後(第二次大戦勃発直前)のKöln学会における幾つかの講演,たとえばWernickeとKraepelin両者に相次いで師事したGaupp(1939)12)の所論,WernickeとKraepelinの対比論(Schröder 193943),Leonhard 193935))なども挙げられよう。
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