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近頃繰り返して述べられている意見として,臨床精神医学の研究はいわば死点にぶつかっているという。これまで行われてきたやり方は,原因や症状や経過および転帰,さらに剖検所見を考慮して疾患形態を限定しようとするものであったが,それは使い古されてもはや役に立たなくなり,新しい道をとって進まなければならなくなったというのである。このような見解にはある程度の正しさがあることを認めないわけにはいかない。人々が組織切片を顕微鏡でしらべ始めた頃は,毎日のように新しい発見が得られた。今日では本質的な進歩を得ようとするには,きわめて微妙な技術的手段を用いなければならない。これと同じように,疾患形態についてのわれわれの知識を拡大するには,次に述べる諸問題がある程度明らかになっている現在では,もはや苦労なしにやりとげられるものではない。われわれが深く入りこむほど,困難は大きくなり,扱う技術はより完全なものでなければならない。それにもかかわらず,われわれの成果は控え目なものとなり,科学的研究の一般的経験と同様に,こうした進歩で満足しなければならなくなる。
このような状況のもとでは,より見込のありそうな臨床的研究の新しい目標と道程があるものかどうかという課題を提出することは誠にもっともなことである。もちろんこの場合の視点は,疾患形態を区別し分類するという純粋な整理的な作業から,病的現象の本質とその内的連関についての理解を得ようとする疑いもなくより高度で充実した問題に向けられている。われわれは精神障害の錯雑する多様性をその外面的な形式において知るのみならず,その成立の法則を解明して,それをはっきりした前提の結果として把えることを学びたいと思う。
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