回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・7
印象に残る人々—E. KretschmerとC. v. Economoと野口英世を中心にして
内村 祐之
1,2
1東京大学
2日本学士院
pp.69-76
発行日 1967年1月15日
Published Date 1967/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201144
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
ミュンヘンでの研究生活は忙しかつたけれども,義務に拘束されることはなく,また,質実剛健をもつて鳴る土地柄だけに,ビール以外には,いかがわしい誘惑もなかつたので,この間,私は,各方面の専門文献をあさつたり,大学や病院を廻つて実地見聞をひろめたりすることにつとめた。そして,疲れたり暇(ひま)ができたりしたときには,ミュンヘン周辺の景勝地を訪れて,息抜きを計つた。ババリアの南部地方はアルプスの北麓で,かのチロル地方にも連らなつているので,無数の湖沼と森林と山岳とに恵まれ,気分の転換を計るには,またとない好適地であつた。
ミュンヘンに到着して間もなく,一番手近にあるスターンベルグという湖を訪れたとき,湖岸から,ほど近い葦(あし)の茂みの中に,粗末な十字架が立ち,それに古びた花環が掛けられているのを見た。そして,これこそ,かつてのババリア国王Ludwig Ⅱと,王に侍した精神科医Guddenが,共に水死した地点だと聞いて,感慨を催したことを覚えている。Guddenは,当時のミュンヘン大学の精神科教授として令名をうたわれた学者で,Kraepelinもかつては彼の門弟であつた。
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.