Japanese
English
特集 病識〔精神病理懇話会講演および討議〕
(4)「疾病失認」(または疾病否認)について
Anosognosia (Denial of Illness)
大橋 博司
1
H. Ohashi
1
1京都大学精神医学教室
1Dept. of Psychiatry, School of Medicine, Kyoto University
pp.123-130
発行日 1963年2月15日
Published Date 1963/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200530
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Ⅰ.
「病識」の問題に関して臨床脳病理学の見地かち発言を命ぜられたのでanosognosieを中心に述べようと思う。
“anosognosie”というのはいうまでもなくBabinskiの命名によるものであるが,この用語がはたして適切なものであつたか否か問題があろう。これを字義通り解すれば「疾病」nososの「失認」agnosiaであるが,Babinskiがこの述語を片麻痺の否認の意味に用いたことは周知の事実である。その後,広義にはいわゆるAnton症状にもこの述語が用いられるようになつたが,要するに否認の対象となる疾患は粗大な身体的機能欠損に限られ,またこの際の病識の欠如がいわゆる「失認」といえるものか否か。もちろん,失認の定義如何にもよるが,通常失認とは一定の感覚路を通じての認知障害であり,その感覚路の異なるにつれて視覚失認,触覚失認,聴覚失認などに分けられる。しかし自己の疾病を知覚するのは一体いかなる知覚路によるのであろうか。anosognosieは単に知覚の解体ではありえず,通常の失認とは次元を異にした障害といわざるをえない。このためdenial of illnessとかunawareness of physical disabilityなどと呼ぶ人もある。日本語でも以前から「失病認」,「失病識」,「疾病失認」などの訳語があるが,むしろ「疾病否認」と呼ぶのが妥当かも知れない。
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