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I.はじめに
わが国においては,近年アルコール中毒者の数は激増の一途をたどり,しだいに大きな社会問題として発展しつつある。
そして,その対策としては法律による飲酒制限,飲酒犯罪者の法的抑制強化,アルコール中毒専門病院の設置などの政治的,社会的施策とともに,アルコール中毒者の医学的解明がもつとも重要であることは論をまたないであろう。
しかしながら,これまでわが国のこの問題への関心は欧米諸国と比較してきわめて乏しく,その研究も微々たるものであり,とくにアルコール中毒者の治療の面においては,わずかにその緒を見出したにすぎないといつてよいであろう。
慢性アルコール中毒者ないし飲酒嗜癖者治療の最終目標は,飲酒嗜癖形成化の阻止にあると考えられ,その方法としては精神療法および化学療法の2つに大別されよう。
そして,個別的あるいは集団的精神療法,催眠療法などの研究の進歩と並んで,1948年デンマークのE. JacobsenとJ. Hald1)によつて,Tetraethyl-thiuram disulfide(Antabuse)の抗酒性が発見されて以来,アルコール中毒者の治療の領域にもようやく化学療法が導入されるようになつた。
その後,Antabuseの難点である個体差が大であること,遅効性であること,飲酒試験時の飲酒量と反応ピークに差があること,入院治療を必要とすること,効果持続性の短いこと,副作用が出現することなどを除去しようとして,薄葉2)は石灰窒素を,Fergusonら3)や白橋ら4)はCitrated Calcium Carbimide(Temposil)を使用した治療経験を報告している。
1960年,向笠5)は臨床的には飲酒の楽しみを奪わず危険量以下の飲酒量で十分な満足感をえられる節酒剤としてCyanamideの効果についてのべている。
われわれおよび共同研究者は,1956年以来アルコール中毒者および飲酒嗜癖者の臨床精神医学的,身体病理学的ならびに臨床心理学的研究を行ないつつあるが,ここにその治療面への一寄与として,Cyanamideを使用してとくに飲酒試験時における病態生理学的側面を中心に観察し,その抗酒性について検討を行なつたので報告する。
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