Japanese
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研究と報告
「病院内寛解」について—病院精神医学の立場から
Uber die sog. "Remission in der Anstalt" Ein Beitrag zur Anstaltpsychiatrie
藤繩 昭
1,2
Akira Fujinawa
1,2
1四日市日永病院
2京大精神科
pp.95-101
発行日 1962年2月15日
Published Date 1962/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200409
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Ⅰ.序言
ここに「病院内寛解」というのは,私の知るかぎりではいままでの精神医学的文献には記載されていない概念で,つぎにのべるような状態像に対して仮りに名づけたものである。すなわち分裂病者が病院にいるかぎりでは主観的症状はなく,病院社会に適応し,心的平衡をたもつことができ,客観的にもいわゆる寛解状態を維持しつづけるのに対し,ひとたび病院を離れるとただちに症状があらわれて,病像は悪化し,そしてまた病院に帰つてくるとまもなく心的平衡をとりもどして,寛解状態をきたす,そのような状態に「病院内寛解」という言葉を使うこととする。しかも病院外での増悪が,退院後一定期間をおいて再発するというのではなく,病院内と病院外という状況変化(あるいは環境変化)に相応して,症状が出現消長する様相を,われわれがある程度明白に把握しうるような場合にかぎつてこの言葉を使うこととする。
状況の変化に応じて分裂病の主観的症状が消長するという事実は古くから知られていたが,とくに治療状況との関連でこのような事実についてふれているものに,笠原の研究がある。彼の心理療法をほどこしていた女の患者は「面接時間には一時的に治療者に関していだいていた妄想がすべて霧散して,いわばこの面接時間中のみは寛解状態にあつた」。Lidzらは分裂病者の家庭研究で,患者が家庭に帰れば病状が悪化するという事実を指摘しているが,こういうことはわれわれのしばしば経験することである。
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