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Ⅰ.緒言
精神病院の入院患者の大部分は精神分裂病によつて占められ,しかもその大半は発病後相当長期間を経過し,種々の治療によつても回復せず,高度の人格欠損,あるいは痴成の状態を示す慢性分裂病である。したがつて,このような病者について,その失われた自発性,社会性をふたたび回復し,少くとも家庭における日常生活の遂行を可能とする程度の主体性を得るような状態にもたらすことは,現在の精神病院に課せられたもつとも大きく,またもつとも重要な問題の一つである。このため最近にいたつて,薬物療法とならんで,作業,レクリエーションなどのいわゆる生活療法が重要視され,多くの精神病院において積極的に取り上げられるようになつた。精神疾患患者の開放管理はこのような目的で,生活療法の一翼として考えられるものである。
開放管理,あるいは開放療法という言葉が盛んに用いられるようになつたのは極めて最近のことであり,それまでは限られた精神病院において4),このような試みが,実験的に行われていたにすぎない。従前の精神病院の内部には,精神療法,あるいは強力な精神看護は見られず,病者は集団として取扱われてその個人性を認められず,無気力に沈滞しているという状態であり,このような状態が長続きすれば,ただでさえ荒廃におちいりやすい精神疾患患者の内面的生活はますます単調となつて行くことは当然である。このような考えから開放管理は従前の閉鎖管理が中世紀的な世界観より習慣的に生じて来た精神医学的根拠に乏しい管理形態であり,これが加わることによつて病者の荒廃はより高度となるという立場に立つて,1793年Ph. Pinel5)が数々の抵抗を排除して精神病老を鉄鎖から開放することにおいて開始された。Pinelは精神病者について徹底的に過去と現在についての個別研究を長期間にわたつて行うことにより,その治療態度を決定し,病者に対して忠告や優しさが無効である場合にも決して一足飛に体罰的な行動や激情的な言葉に移行しないで,一種の中間的な説得,激励などの方法によつて相対し,病者になお残されている健康な精神をひき出して行こうと考えた。このPinelによつて開始された精神病者の解放とその根本に横たわる新しい精神療法は,その後徐々にではあるが世界の精神病院において行われるようになり,H. Barukの“道徳療法”1)あるいはV. Franklの“ロゴテラピー”2)において一層の理論的発展を見るようになつた。
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