特集1 患者にとって‘開放化’とは何か—精神科病棟開放化の意味と課題
‘開放化’とは患者にとって何を意味するのか
矢野 真二
1
1上秦野病院
pp.1232-1236
発行日 1981年11月1日
Published Date 1981/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919387
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
今日の精神医療において,開放化といった言葉が日常性をもって語られているが,果たして現実は,語られているほどに,患者にとって,生きた言葉として体験されているのだろうか.確かに,入院治療一辺倒といった考え方から,患者個人の生活を可能な限り継続させながら治療をしていくといった医療の方向性と,その広がりを全く否定するものではない.しかし,確実な増加を続ける精神病院のベッド数と,患者の多くがあちらこちらの病院を転々としている事実をまのあたりにした時に,患者にとって開放化といった言葉は,果たしてどのような意味をもってくるのだろうかと,改めて考えざるを得ない.もしかしたら,基本的な精神医療の治療論を展開し得ない精神医学が,開放化といった1つの抽象的概念をもって,隔離収容といった閉鎖的である精神医療の歴史的事実にピリオドを打ちたかっただけのことではなかったのか,といった思いが走る.
この思いは,精神病院の中に一歩足を踏み人れることにより,確実に現実のものとして具体性を帯びてくる.相も変わらぬ患者の人間性を無視した日常が,治療といった名目のもとに展開されている,患者不在の精神医療の歴史的事実の中で,看護者が果たしている治安管理的で抑圧的役割を見直し,患者の人間性の回復を図ること以外に,開放化は有り得ないと筆者は問い続けてきた.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.