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緒言
もともと人工冬眠のために登場したChlorpromazineが,J. Delayら(1952年)によつて初めて精神科領域の治療に有効であることが確認されてから,精神科領域の化学療法ともいうべき新しい薬物療法が,ペニシリンやストレプトマイシンの登場と同じく,各方面に多大の注目を与えたことは,いなめない事実である。爾来,この化学療法は急速に進展し,現在までに数多くの薬剤が登場したが,なかんずく,Chlorpromazineを初めとしてphenothiazine系誘導体に属する薬剤の種類がもつとも多い。これらは,いずれもより強力な,副作用の少ない,いつそうすぐれた薬剤の探求にしぼられている観があるが,薬剤のおのおのの精神薬理学的特性にしたがつて,臨床方面の適応範囲および使用法は,現在のところ,ほぼ明確化された形になつている。これについては,伊藤氏らの綜説に詳細にのべられている。その中でも注目に値いすることは,これらの薬剤の効果は,従来の睡眠剤や鎮静剤,あるいはさらに新しいトランキライザーとも性質が異り,その作用は,単に対症療法の域ばかりでなく,原因療法,いわゆる"内因性精神疾患"の深い内部の病因に直接作用するであろうともいわれていることである。
われわれは精神病院にあつて,現在のところchlorpromazine,Reserpineあるいはphenothlazine系誘導体の種々の薬剤を使用しているが,それでもなお解決できないたくさんの問題がある。慢性分裂病の患者はむろんのこと,ことに情動面で感情易変,刺激性易怒性,衝動爆発性などの患者に対しては,従来は電撃療法をひんぱんに施行し,あるいは保護室に入れるなど,日夜患者の病状改善にわれわれは腐心してきた。したがつて,このような患者に対し,より強力で効果のある薬剤の出現を期待してきたのは当然である。
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