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1.緒論
精神分裂病と自律神経機能失調との関連性は古くより研究されており,これまでAdrenaline,Atropine.Phentolamine,Mecholylらによる機能検査により正常者との間に有意の差があるか否か論究されてきたが,まだ一致した意見をみない。精神分裂病者にAdrenalineを投与したさいの血圧変動を測定し,Schmidt1),Stuurman,Mcwilliam2),Kanner3),Freeman4)らは,正常者群に比較して反応性の低下していることを指摘したが,他方Lowrey5),Newcomer6),Northcote7),Sachs5)らは,両者間に差異のないことを主張している。また,Hoffer8)は,精神分裂病180人と非分裂病性精神障害140人について,Atropine 3mg筋注後の収縮期血圧を測定し,前者では80%が低下するのに対し,後者では,わずか20%にしか低下をみないという。これについては,その後SilversteinおよびKline5)らが追試したが,両者間に有意の差のないことを報告している。交感神経中枢の反応性について,SolomonおよびDarrow9)は,精神分裂病では低下しており,症状の改善とともにその反応性が上昇すると主張し,その後Hillら10)も,ショック療法は交感神経中枢とくに視床下部を刺激することにより,その反応性を上昇せしめ,症状の改善を得さしめるといつている。Shurley11)も,インシュリンショック療法後にAdrenalineおよびMecholylに対する反応性が高まつたことを報告している。Funkensteinら12〜15)は,精神疾患者および正常人にっいてAdrenalineとMecholylを使用し,収縮期血圧を1分ごとに25分間測定し,その時間的変動の型により,最初7つの群に分け,のちには2つの群に分けて,電撃療法の効果との間に相関関係のあることを主張した。すなわち,Mecholyl10mg筋注後の血圧下降が,25分後も続き,注射前の測定値まで戻らない型をA群とし,25分以内にもとの高さに戻る型をB群とした。正常人の80%はB群に属するが,精神疾患群ではA群に属するほうが多く,B群に属するのは20%という。そして,A群に属する精神分裂病患者は,電撃療法が効果的であるが,B群に属するものは無効であつたといつている。さらに,Funkensteinらによると,A群では精神症状の改善とともにMecholylに対する反応型が変化して,B群に移行するという。これは,A群では交感神経の反応性が低下しているのに対し,B群ではその反応性が正常範囲にあることを示していて,交感神経の反応性が低下している精神分裂病群では,電撃療法がよく奏効し,反応性上昇とともに,臨床的改善を得るといつている。諏訪ら16)17)も,Mecholyl試験により,血圧下降が軽度ないし中等度で10分以内に注射前の値に戻るもの(N型),血圧下降後注射前よりさらに上昇するもの(S型),および血圧下降が中等度ないし高度で25分以内には注射前の値に回復しないもの(P型),との3つの型に分類し,Chlorpromazine療法では,投与前にP型を示したものに病像の改善をみたものが多く,S型では病像の不変のものが多い。そして病像の改善とともに,反応型がP型からS型の方向へ移行するという。このP型は,Funkensteinの分類したA群(予後良好群)に相当し,諏訪の場合,Chlorpromazineもやはり交感神経反応性の低下している群に奏効することを示している。Mecholylは,Cholinesteraseに対し比較的安定なAcetylchline類似物質であり,Gellhorn18)によると,末梢性に血管にはたらき血圧下降をきたし,ついで頸動脈洞を介し,反射的に交感神経副腎系の興奮を惹起し,ふたたび血圧の上昇をおこすという。さらに視床下部後部を電気凝固させたのちは,電気刺激を行なつても,猫の血圧および瞬膜に対⊃て影響がなく,Mecholylの血圧下降作用が増大し,かつ持続することを実験し,交感神経副腎系の反射中枢は視床下部後部であろうと結論した。したがつて,FunkensteinらのA群では,この視床下部後部の反応性が低下しており,このような型に電撃療法がよく奏効するということになる。しかし,その後追試が行なわれ,Satterfield19)は,Funkensteinの2群,すなわち予後良好群と不良群について,電撃療法の効果を観察した結果,有意の差がなく,とくに6ヵ月〜2年間の長期観察では,治療の奏効性に関してほとんど差異がないことを報告している。
他方Schellong20)以来,起立性低血圧調節障害が自律神経機能障害の1つとして問題にされ,その調節機序については,なお不明な点が多いが,そのうち,起立時における拡張期圧の変動は,交感神経中枢の反応性いかんによるといわれている。また,Chlorpromazine(以下CP)の薬理作用が,Adrenaline拮抗性であつて,交感神経系に抑制的に作用すること21),および臨床的にCP投与時,起立性低血圧がいちじるしいことなどから,著者らは,精神分裂病者に治療前Schellong試験およびAdrenaline試験を行ない,自律神経機能の様相を検査し,かつその反応型を分類し,それとCP療法の有効性とを比較し,興味ある結果を得た。
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