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Ⅰ.緒言
戦後,反応性,内因性を問わずうつ状態を主訴として病院を訪れる患者が増加しているといわれているが,その治療に関しては精神科医の頭痛のたねであり,わずかに電撃療法がその存在を認められているにすぎず効果を期待しうるものはまず皆無といつても過言ではない。しかし最近にいたり種々の抗うつ剤Anti depressants,精神賦活剤Psychoactive drugsが相ついで登場し,臨床症状のうえにかなりの改善を期待しうるようになつた。中でも現在注目をあつめているのは中枢神経刺激剤としてのモノアミンオキシダーゼ(MAO)抑制剤である。1952年,SelikoffがINAHのIsopropyl誘導体である1-Isonicotinyl-2-Isopropylhydrazine,すなわちIpronizid(Marsilid)にかなりの中枢神経刺激作用があると発表し,同年に,Zellerが本剤がモノアミンオキシダーゼ抑制作用を有することを発見して以来,本剤とモノアミンオキシダーゼ(MAO)とSerotoninとの関係について種々の実験がなされてきた。SerotninやEpinephrineなどのアミン類が精神活動に関与し,中枢的に働き精神-自律系-身体を統合する化学的媒介物であることが判明してから,MAO抑制剤についての研究も急速に推進されてきた。しかしこの種のMAO抑制剤を投与しても,脳内における治療水準に達しないうちに肝臓のMAOに作用するため,常用量においてもしばしば肝臓にかなり強度の障害をおよぼし確実な効果を期待することが不可能な状態であった。最近Iproniazidの数倍のMAO抑制作用を有し,かつ副作用がほとんどみられない有力な抗うつ剤として,β-Phenylisopropyl hydrazin-HClすなわちCatron(BJ 516)が発展された。
CatronはAmphetamineのAmineがHydrazineでおき換えられたものでAmphetalnine類似の中枢作用とIproniazid類似のMAO抑制作用の双方が期待されるものである。ほかのMAO抑制剤に比して脳血液関門を通過しやすく脳と最大の親和性をもち,したがつて肝臓障害を起こすことも少なく,かなり急速に作用するものと考えられている。
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