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はじめに
精神医学における意識障害の重要性については説くまでもない。しかし今までの演者たちの説明からも明らかになつたように,精神医学の各学派,たとえば,ドイツ精神医学,フランス精神医学,アングロ・サクソン系精神医学における意識障害の取扱い方および重要性は著しく異つている。これは純臨床的な記述的立場から見てさえもこの通りなのだが,更に脳波学の近年の発達は,意識障害とその脳定位の関係という従来病理解剖,実験生理の面から主に追求されて来た興味ある問題に幾多の光明を与えようとしている。亀井君の解説は主にこの点に向けられていたことは御承知のごとくである。
さて,意識の定義,その機能および構造などは昔から哲学者たちによつていろいろと論ぜられて来たところであるが,近代心理学はその病的現象,換言すれば解体あるいは退行を通して,逆に正常構造や正常機能を組立てる方法によつて著しく進歩したごとく,意識現象もまたその例外であり得ず,精神病理学から類推して行くことができるのであり,私は本日主にこの方面を論じようと思う。
さてこの純臨床的立場からの意識の問題についても,すでに無数の業績があるが,それを一々列挙するのは徒らに混乱を招くのみであると考え,また意識障害に関する前演者たちの説明がH. Eyの学説の紹介であつたので,私もまたその筋道を外れることなく,Eyの所論を紹介しよう。彼はEtudes Psychiatriquesの第3巻「急性精神病の構造」の最後の章において,これを総括的に論じているが,これは恐らく今日までの精神医学の書物の中で,もつとも徹底的に,またドイツ語圏の文献もくまなく分析引用されている刮目に値する論文なのだが,かなり難解であり,また多少迂遠冗長の嫌いなしとせず,よんでいるときは流石にEyだと感心することがしばしばであつたが,さてこれを簡単に要約して諸君に伝えようとする段になると,これはまたはなはだむつかしい仕事であることを知つたのである。しかしかねてからの約束にしたがつて一応以下簡単にまとめて見たが,はなはだ不完全なものであり,Eyの真意を伝えるにはほど遠いものになつたことは,私自身誰よりもよく気づいている。御諒察を願う次第である。
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