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サンタンヌ病院の図書室は,静寂を慮った二重の扉を押して中に入ると,右側は主に雑誌を収めた書棚があり,左手の窓からは陽光が柔らかに射しこみ,室内には一席ごとに灰皿が備えられた広い机が並んでいて,ゆったりとして明るく,清楚な印象を与える。図書掛はMme Girardといって,Eyに協力してこの図書室を作り上げてきたとても親切な人で,1971年から私がPichot教授の下に2年間籍を置いた間ずい分と世話になり,H. Eyに会うことをすすめてくれ,その仲介のおかげで,1973年の5・6月に3回にわたってEyより親しく話をきく機会をもつことができた。
73年の夏,30年ぶりでサンタンヌ病院を再訪された村上仁教授は,30年前の暗い感じの図書室とはまったく別の現代的な姿に変貌している,と言われた。道理で,小木氏11)の伝える58年頃の図書室の雰囲気とは異なっているはずだ。それに,機構上もサンタンヌ病院はCentre Psychiatrique St-Anneと名を変えており,由緒あるClinique des Meladies Mentales et l'Encéphaleは,DelayからPichotへと代が変わっている。われわれになじみ深い名前であったE. MinkowskiやD. Lagacheが72年末あいついで逝去し,一方では68年の5月革命以来の改革でフランスの精神医学・医療情勢もいくらか様相を変えてきている。現在のフランスの精神医学の動向を押さえるとすれば,第1に尖端的なantipsychiatrieの動き,第2に,その動きの背景を準備したともいえるパリ13区の地域精神医学活動,第3に,言語に並並ならぬ関心を寄せている精神分析運動(目下のところ4つのグループに分裂している)1),第4に近代的な教育・研究体制をモデル的に整備しつつあるPichot教授の教室,さらにフランスの現代精神病理学を代表すると目されるEyの近況,といった5点を手がかりに展望するのが最少限必要だといえようか。
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