書評
―Henri EY著/秋元波留夫監修,藤元登四郎,山田悠紀男訳―精神医学とは何か―反精神医学への反論
武正 建一
1
1慈雲堂内科病院
pp.216-217
発行日 2003年2月15日
Published Date 2003/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100650
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本書は,Henri Ey(1900~1977)が亡くなる直前に書き,死後刊行されたdéfence et illustration de la psychiatrie-La réalité de la maladie mentale-,1978,Masson. の邦訳である。20世紀を代表する精神医学者の1人エーのことをここにあらためて書くのもどうかと思われるが,本書が生まれるに至った背景ということで少し触れておきたい。精神障害の病理的構造とその病因・病源を求める理論体系が,ネオジャクソニズムとしての器質・力動論であるが,それとともにすべての精神疾患は病源的プロセスに根ざすという意味において,医学としての精神医学の独自性を終生主張してやまなかったのがエーである。
ところで,あれから早や30数年が過ぎようとしているが,1960年代末に始まる伝統的な精神医学疾病論に対する激しい問題提起の動きは,評者の世代にとって忘れることのできない出来事であった。欧米に始まるこのうねりは,ややその形を変えながら日本にも波及し,医局講座制,学会活動などへの反体制的攻撃となって,研究や臨床にも困難な状況をもたらしたことは周知の通りである。フランスでは,イギリスのレインやクーパーらの理論的影響を受けた反精神医学が,やがて1968年の5月革命という社会体制批判の過激な政治的イデオロギー運動によって増幅されてゆくことになる。この騒乱状態にいや気がさし,さっさとパリ大学教授を退いたドレーJ. と対照的であったのが一精神病院の病棟医長としてその職を全うした在野のエーである。
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