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特集「アンチスティグマ活動の新しい転機」はわが国で昨年開催されたアンチスティグマの国際学会の前半部分が55巻10号に,後半部分がこの11号に掲載されている。拝読すると地道なアンチスティグマに結びつくさまざまな実践が,その学会開催の何年も10何年も前から粛々と続けられていたことに触れることができ,その貴重な報告に圧倒された。特に,リカバリーされた障碍者の姿をみてもらうことがスティグマの解消につながるというリカバリーの当事者や家族会の方々からの主張には説得力があり,その努力をされている当事者の方々と彼らを支える地域の仕組みの構築・維持に苦労された方々に心から敬意を表したい。精神科病院の中で活躍している医療者にこれらの事実を知っていただくことはアンチスティグマ活動の推進にとって必須であるということができ,堀川・松下論文は今後の精神科病院と街づくりのひとつの道標を明確に示してくれている。
ところで,この特集には触れられていないが,遺伝の関与が明確であったり,治療法が全く無かった種々の難病克服の医学史を紐解くと,病気の本態が解明され,治療法が確立してしまえば,やがて偏見・差別が無くなっていくことが分かる。現時点では何をするか分からないと思われがちな精神障碍者の行動のリスク管理や病状の厳密な把握が客観的な評価として確立されるとともに,精神疾患の原因究明が達成されると,アンチスティグマ活動と相まって,偏見・差別は無くなるといえる。米国では議会との対立でオバマ大統領の施策の実現が難しくなっているようであるが,オバマ大統領の年間1億ドルをつぎ込むBRAINイニシアティブ(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)が新たなチャレンジであることは言うまでもなく,わが国においても,すべての精神障碍者をリカバリーに導く新たなチャレンジに向かって,基礎と臨床が連携した脳科学研究を推進できるようにしてもらいたいと,この特集を拝読して実感した次第である。
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