書評
―伊勢田堯,小川一夫,長谷川憲一 編著―生活臨床の基本―統合失調症患者の希望にこたえる支援
江畑 敬介
1,2
1江畑クリニック
2日本精神障害リハビリテーション学会
pp.1261
発行日 2012年12月15日
Published Date 2012/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102343
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私は本書を一読した時,L. Ciompiの統合失調症の長期経過報告(1976年)を想起した。それによると,自己の将来に希望をもっていた患者の経過は良好であった。私は希望を持つという心情的要因が経過に影響を与えることに驚嘆した。本書に描かれた生活臨床においては,その理念から臨床技法に至るまで,患者および家族に対して,希望を見つけ,それを育み,その達成を支援するという姿勢が貫かれている。この生活臨床の治療を受けた患者の長期経過によると,98例のうち35例が5年以上の自立安定状態に至り,そのうち25例は服薬を含めて治療を終結していたという驚くべき良好な結果を得ている。
生活臨床の理念は,「重度の精神障害者であっても,他の身体疾患と同様に普通の環境で普通に治療し,そして病院ではなく地域で普通の生活ができるようにする時代を到来させようというビジョン・夢を大胆に掲げ,それらを実現する技術開発・サービスシステム開発によって新しい時代を切り開くことを使命として,生活臨床は取り組まれた。」としている。これは近年精神障害者のリハビリテーションの先進国において取り入れられている理念と同一であり,その理念に基づく臨床活動が1958年に群馬大学ですでに始まっていたのである。その理論は,統合失調症は脳の生物学的な障害の上に,何らかの生活上の出来事を引き金に発症するという仮説に立っている。これは,1977年にJ. Zubinが提唱した脆弱性―ストレス理論と同一であるが,それよりも20年近く前のクレペリン精神医学が全盛時代に著者らによって懐胎されていた概念であったことに驚愕を感じる。
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