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長谷川和夫先生が2021年11月13日に92歳で亡くなられた。先生は晩年には自らが認知症であることを公表し,講演活動を続けられていたが,その報に接したときに「俺は認知症なんだから本物の認知症の専門家だな」と言われたことを思い出した。先生と私との接点は1973年に先生が聖マリアンナ医科大学神経精神科初代教授として赴任したときから始まる。先生が赴任して間もなく東京都全域を対象に認知症に関する日本で最初の大規模な疫学調査が行われた。何軒かは長谷川先生と一緒に訪問した。冬の寒い時期だったが,「東京都の民生局から来ました」というとまず断られることはなかった時代であった。介護が必要な高齢者が利用できる施設は特別養護老人ホームしかない時代でもあった。ゆっくり日常会話をしながら相手の話を遮らず調査を進めるやり方はまさに先生のスタイルであった。1974年に出版された長谷川式簡易知能評価スケールはこの調査でも使われた。国際的に頻用されるMMSE(mini mental state examination)がほぼ同時期の1975年に発表されたことをみると興味深い。
1975年に第10回の国際老年学会がイスラエルのエルサレムで開催され先生と一緒に参加した。先生は東京都の結果を報告された。まだ日本ではアルツハイマー型認知症よりも血管性認知症と診断される割合が多く,国際会議では常にその話題で質問が盛り上がっていた。先生はSir Martin Roth(Newcastle upon Tyne),Ewald Busse(Duke University),Lissy Jarvik(UCLA)を始めとしてスイス,イタリア,ドイツなどの研究者たちと懇親会などで親しく話をされていたが,普段の医局ではみられない面だった。
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