書評
―青木省三,村上伸治 編,野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集―《精神科臨床エキスパート》専門医から学ぶ―児童・青年期患者の診方と対応
尾崎 紀夫
1
1名古屋大学大学院/精神医学・親と子どもの心療学
pp.1219-1220
発行日 2012年12月15日
Published Date 2012/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102342
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精神科研修を開始した1984年から数年間,腎臓移植のリエゾン精神医学にかかわり,レシピエントである患児と接する機会を得た。移植腎を,「お母さんの腎臓さんが頑張ってくれている」と長期間語り,自己の腎臓として受け入れる過程が進まなかった11歳の女児は,その後,何度も尿量を確認せざるを得ない強い不安を呈した。13歳の男子は拒絶反応が生じた際,「お父さんが自分のお腹を切って,僕にくれた腎臓を駄目にしてしまって申し訳ない」と強い自責感を示す抑うつ状態に陥った。両親から受け取った「掛け替えのない腎臓」を,患児が心身両面で統合する過程にかかわることは,彼らの回復する力を目の当たりする一方,慢性疾患を抱えた患者・家族が医療に対して持つ両価感情,副腎皮質ホルモンや腎不全の脳機能への影響も含め,私の精神医療観に大きなインパクトを残した。
当時,このリエゾン活動の指導者であった成田善弘先生はもちろん,周囲の児童精神科医の方々からいろいろな教えを受けたが,加えて「児童青年期患者の診方と対応」に関する何か良い書物はないかと探した。青年期はまだしも,児童期となると,「これは」と思える書物には行き当たらなかったように記憶している。
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