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目を輝かせて将来を語る医学部新入生の多くが精神医学など心の問題に興味を抱いているのに,実際に心のケアの領域に進むものは少ないというパラドックスを医学教育現場で耳にする。「病に苦しむ人々を救いたい」と医学の道を志したとき,「病を持つことの辛さをも引き受けたい」と医学生たちは考えていたであろう。すなわち「心の辛さ」を癒すことも守備範囲としたいと思いつつも,臨床実習などで医療現場を知るようになると夢をあきらめさせてしまうような齟齬がどこかにあるように思えてならない。現代医療において「医師は病気を診るが,人を診なくなった」という批判を耳にすることも多い。医療が高度化した現代では,患者と向き合う「赤ひげ先生」は絶滅したといわれる。生物医学モデルに基づいた診断と治療という疾病志向型医療のもとでは,患者の個別性や環境要因などは病態を修飾する攪乱因子と見なされてきた。そのため,患者の受療行動に配慮する目的は,生物学的な反応系からアーチファクトを排除するためと考えられた。しかしながら,症例ごとの多様性という奔流の中では,治療環境を統制しきれないのは明らかである。治療転帰という「結果を出す」ために,医療者が考慮すべき領域を縮小するほかはなくなってしまったのであろう。
人が体の不調を訴えるとき,身体の問題だけにとどまらず,その人を取り巻く心理状況や社会背景からも多大な影響を受けている。George Engelは1977年に「生物-心理-社会モデル」を提唱し,病気を理解するためには生物医学モデルだけではなく,心理,社会的要因を含めたシステムの異常としてとらえる必要があると主張した。すなわち,診断と治療に注意を注ぎながらも,同時に患者の人間としての側面や,患者-医療者関係,家族,社会背景といった側面にも目を向けて,これらの因子がどのように結び付いているか統合的に理解することが必要である。また,最近多く耳にする「患者中心の医療」とは,患者と医療者が対等であることを意味するが,患者自身の観点から病むことを理解すること,病むことの体験を全人的に理解することなど,心理-社会的アプローチが強調されている。Moira Stewartらによると,患者中心の医療を行うと患者満足度のみならず医師の診療における満足度も高かったという。
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