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失語症の理論や,診療に必要な知識を整理できる良書
本書は有名な“Anomia:Theoretical and Clinical Aspects/Matti Laine and Nadine Martin, Psychology press. 2006.”の日本語版である。訳者はロンドン大学で言語障害関係の博士課程を修了された佐藤ひとみ博士である。本書の内容は,①単語検索モデル,②失名辞の主な種類,③呼称の神経基盤,④失名辞の臨床的評価,⑤単語検索障害に対するセラピー・アプローチ,⑥結論と将来の方向,⑦訳者のあとがき,⑧文献から構成されている。多数の文献を詳細に検討したうえで,失語症のモデルの変遷と現在の認知モデルによる失名辞分類,失名辞の理論的解釈,単語処理の検索過程による失名辞分類,失名辞の理論に基づく知見の失語症への応用,脳画像による言語領域の検討,失名辞の臨床的評価法と治療など多方面にわたって知識が整理され,詳細に述べられている。わが国ではこの領域の欧米の文献や著書に接する機会は,一部の学者や臨床家に限られる。本書は学者や研究者にとって失語症の理論や診療に必要な知識を整理するうえで,また最近の脳科学の知識を加えて将来の研究開発を考えるうえで有用である。言語障害の診療に従事する医師や言語聴覚士にとっては近年の欧米の失名辞に対する研究状況や,評価,診断,治療に関する情報を知ることができ,日常の診療に役立つとともにわが国の失語症の研究や臨床の進歩・発展のうえでも影響を及ぼすものと思われる。聴覚・言語関係や高次脳機能障害関係の養成校や大学,大学院の学生に対しては,優れた著書であるので参考書として推薦したい。
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