書評
―加藤 敏,八木剛平 編著―レジリアンス―現代精神医学の新しいパラダイム
鈴木 國文
1
1名古屋大学医学部保健学科
pp.1227
発行日 2009年12月15日
Published Date 2009/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101545
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『レジリアンス―現代精神医学の新しいパラダイム』と題された本書は,「レジリアンス」という我々精神科医にとってあまりなじみのない概念をめぐり,加藤敏,八木剛平という斯界のオピニオン・リーダー2人が編んだ入門の書である。編者の他に,精神病理学と生物学的精神医学の双方から11人の著者が筆を執っている。
私は「新しいパラダイム」といったことが謳われている書物をあまり信用しない。科学哲学者Kuhnがいう意味で真に刷新されたパラダイムなどが1人の科学者の思考史の中に現れることなど,まずないからである。「新しいパラダイム」と謳われる事柄のほとんどが,その科学者がそれまで信じてきた「科学」の有効範囲の限定に過ぎない。では,本書もそうなのだろうか…。本書の2人の編者は,近代医学のあり方には精神障害のある部分を見逃す構造が本質的にあることを,ずっと指摘し続けてきた論者である。近代医学のこの限界に関し,「レジリアンス」という視点を得て,新たにその本質に迫ろうとする本書は,確かに「新しいパラダイム」を志向した書といっていいだろう。しかし,「新たなパラダイム」に乗ることの難しさは,参加した執筆者の幾人かが得た印象でもあったのではないだろうか。
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