書評
―加藤 敏 編著―レジリアンス・文化・創造
野口 正行
1
1岡山県精神保健福祉センター
pp.1167
発行日 2012年11月15日
Published Date 2012/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102323
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本書は2009年に出版された加藤敏,八木剛平編「レジリアンス:現代精神医学の新しいパラダイム」の第二弾である。前著が精神医学内部におけるレジリアンスの意味を主に取り扱ったのに比べて,本書ではレジリアンスを人文社会科学の広大な土地に解き放つ。ここでは,文化,災害,移民,語り,戦争トラウマ,芸術,音楽などのさまざまなテーマが取り扱われ,レジリアンスも個人から社会へ,そして生物学的メカニズムから語り,神話,霊的体験にも広がってゆく。著者も精神医学のみならず,哲学,音楽など人文社会科学や芸術を含んだ多彩な顔ぶれとなっている。
もともと精神医学では精神疾患というマイナスに思われていた状態が創造性の発露と関係する,という逆説的な事態に病跡学が光を当てていた。そして本書はそこから一歩進める。職業としての芸術家,よく知られている芸術家に創造性の概念をとどめるのではなく,日常生活を生きるすべての人々の日々の営みにも創造性を見ようとする。病むことが,単に「健康になり損ねた敗北」を意味するのではなく,逆境とそれをなんとか乗り越えようとする個人の懸命の努力でもあること,逆境そのものは変えられないとしても,その意味を変えようとする試みでもあること,その試みの成功の度合いと方向性にはさまざまなものがあるにしても,すべて創造的な試みと見なせることを,本書はすくいとろうとする。
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