書評
―加藤 敏 著―人の絆の病理と再生―臨床哲学の展開
井原 裕
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1獨協医科大学越谷病院こころの診療科
pp.409
発行日 2011年4月15日
Published Date 2011/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101852
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精神病理学の課題は,究極において,「人間とは何か」という問いに,臨床的観点から解答を与えることにある。それは,神経科学の侍女でも,精神療法の技術論でもない。精神病理学は,学祖たる西丸四方,島崎敏樹,村上仁以来,広範な人間学的関心の上に進められてきた。島崎の「人格の病」が『思想』に掲載されたように,学の出発からして思想的なものへの志向性を有していた。「哲学と精神医学」あるいは「人間学と精神医学」のテーマは,精神病理学のレゾン・デートルそのものである。
本書の著者は,学生時代から哲学に傾倒。独仏の文献を渉猟したデビュー論文「哲学と精神医学」(加藤敏,宮本忠雄:精神医学23:748-767,1981)を本誌に寄稿したときは,まだ32歳の青年であった。2年後,「『自己-事物-他者』の三項関係から見た分裂病」(臨精病理 4:57-78,1983)を発表。現象学の基本概念「パースペクティブ」を精神病理諸症状において論じた。以来,著者は,デビュー以来のテーマを一貫して追求。今や,安永浩,木村敏,中井久夫といった‘great thinker’の系譜を引き継ぐ存在である。
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