書評
―加藤忠史 著―《脳科学ライブラリー1》脳と精神疾患
㓛刀 浩
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1国立精神・神経センター 疾病研究第三部
pp.716
発行日 2009年7月15日
Published Date 2009/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101461
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加藤忠史先生が単独で執筆された著書は,本書を含め5冊になる。「双極性障害―躁うつ病の分子病理と治療戦略」(医学書院,1997年)は,加藤先生の研究対象疾患について臨床から研究まで網羅した名著であり,本書評欄でも拙文を掲載していただいた。双極性障害の著作にはほかに「躁うつ病とつきあう」(日本評論社,1997年,2008年改訂第二版)と最近の「双極性障害―躁うつ病への対処と治療」(ちくま新書,2009年)が出版されている。「こころだって,からだです」(日本評論社,2006年)は,最先端の脳科学的研究成果も盛り込みつつ,精神疾患全般についてわかりやすく書かれた啓蒙書である。今回の「脳と精神疾患」は,全7巻の脳科学ライブラリー(津本忠治 編集)の第1巻であり,より専門的な内容となっている。
本書は,精神疾患の脳科学的進歩について,簡にして要を得た解説書である。全体で214頁とコンパクトであるが引用文献は550件に上り,いずれの文献も精神医学研究のマイルストーンとなるような選りすぐりのものだ。膨大な研究成果をよくここまで要領良くまとめたものだと脱帽するほかはない。日本人研究者による研究成果の紹介も多く,わが国の研究について知るのにも役立つ。対象疾患は統合失調症,うつ病,双極性障害,自閉症,AD/HD,不安障害,身体表現性障害と,主要な精神疾患を網羅している。最後に動物モデルについて概説した1章があり,精神疾患を動物で研究することの現状と問題点についての完璧な総説となっている。
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