書評
―春木繁一 著―腎移植をめぐる兄弟姉妹―精神科医が語る生体腎移植の家族
野間 俊一
1
1京都大学
pp.300
発行日 2009年3月15日
Published Date 2009/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101390
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わが国で初めて腎臓の移植が試みられてから半世紀が経過した。今や臓器移植は決して特殊な先端医療ではなく,誰に対しても開かれた一般医療になりつつある。ただし,1997年に脳死を人の死と認める臓器移植法が策定されてからも,やはり生体間移植が圧倒的に優勢である日本の移植事情の中で,移植患者とその家族が少なからぬ心理的葛藤を抱えているという事態は本質的には変わらない。やはり,健康な身体にメスを入れるということの不自然さは,関係する人たちの心を波立たせずにはおれない。
著者は,腎移植の歴史とともに移植患者に寄り添い続けた,わが国の「臓器移植精神医学organtransplant psychiatry」のパイオニアである。あとを追って,若干の意欲ある医学者がこの領域で活躍しているが,およそ40年間にもわたってひたすら移植医療に携わってきた精神科医は著者をおいてほかにない。本書は,移植医療者向け雑誌『今日の移植』への連載記事を中心に,近年発表された論文を1冊の本にまとめたものである。平易なエッセイ風の筆致の背後に,経験に裏打ちされた著者の強い信念が見え隠れし,内容はきわめて重く深い。
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