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本書はミシガン大学の心理学者であるヴァレンスタイン教授により執筆された著書である。筆者は,まず第1章で本書の構成と概略について簡単に要約したあと,本論の最初となる第2章で,LSDの偶然の発見から,抗精神病薬のクロルプロマジンやハロペリドール,三環系抗うつ薬やモノアミン酸化酵素阻害薬のほか,リチウムや抗不安薬の発見など,向精神薬が発見された当時の状況について詳述している。続く第3章では,うつ病の生体アミン仮説や統合失調症のドーパミン仮説など,精神疾患に対するこれらの薬剤の効果から想定される作用機序についての生化学的仮説が,わかりやすく紹介されている。
第4章は,「証拠を精査する」と題して,まずは,これまで提唱されてきたうつ病における生体アミンの欠乏仮説や受容体感受性亢進仮説が納得のいくものではないにもかかわらず,製薬企業が選択的セロトニン再取り込み阻害薬の販売のためにこれらの仮説が宣伝に使われている現状を批判的に紹介している。また,統合失調症のドーパミン仮説についても,それが十分でない論拠をいくつか挙げたうえで,抗精神病薬が無効な統合失調症患者もかなりいることを取り上げて,統合失調症の異種性について言及している。さらに,気分障害におけるリチウムの作用メカニズムも十分に解明されていないことを取り上げ,精神疾患における生化学説に対して批判的に検証しており,これらの単純理論の展開に警鐘を打ち鳴らしている。続く第5章では,「証拠の解釈」と題して,デキサメサゾン抑制試験の例を挙げて精神障害の原因と結果が混同されている可能性や,有効な治療法から精神疾患の原因を推測する際の問題点について取り上げ,神経伝達物質や遺伝が精神疾患の生物学的要因のすべてではないことを論じている。また,精神障害の診断の変遷に政治的な要因や流行のあることにも言及して,「DSM-IV」の問題点をいくつか指摘している。
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