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本書は,1992年に発刊された安永浩著作集全4巻から漏れていた若干の論稿や,専門的でないエッセイ類も含み,自身の内面もよく反映していると,序文にある。まず安永氏特有な独創的な精神病理学の理論についての章のほかに,数学界(第3章),国際会議基調講演(第8章),対談(第16章),随想(第10章)など色とりどりの内容・形式になっている。精神医学以外の分野にもわたり,さまざまの方面で役立つと思われるが,特に氏のやや難しい理論が具体的に,あるいは違った角度からわかるようになっている。
「あとがき」に追記された【緊急情報】は,安永氏が最も影響されたO. S. Wauchopeのニューズである。Wauchope氏の消息は,1959年時から「ウォーコップ氏行方不明」となっていたが,本書の最終校正を終えた朝に,ロンドンのWauchope氏親族から「彼は1957年にケニアで癌のために死んだ」とメールを受けたのである。【8.O.S.ウォーコップの次世代への寄与(2001)】は,個人的回想から始めている。安永氏は,医学部学生の時に,Wauchopeの「ものの考え方―合理性への逸脱」(深瀬基寛訳)を読み,一種の「解放感」を得た。「いささか神経質」だった青年にとってその解放感は,かなりのものだったという。しかし,Wauchopeの影響は彼の内面で眠り続けた。そして精神科医の経験を積んで,schizophreniaの「了解し難さ」の難問に直面して,9年後にWauchopeの書に示された哲学に目覚めたのである。その論理から「パターン」を取り上げ,ファントム空間論を仮説として発表した。schizophrenia患者が表象空間を錯覚し,「パターン逆転」して,憑依のような形を呈することなどがこの章に解説されている。
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