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はじめに
平成元(1989)年に創設された「老人性認知症疾患センター事業」は,①専門医療相談,②鑑別診断・治療方針選定,③地域保健医療福祉関係者への技術援助,④緊急時の空床確保などを施設基準に定めた,わが国の数少ない認知症医療対策の1つであった。しかし,平成17(2005)年度に実施された「老人性認知症疾患センター活動状況調査」(以下,平成17年度調査)1)によって,これらの機能を十全に保持しているセンターが少ないことが明らかになり,本事業に対する国庫補助金としての委託料は平成18(2006)年度をもって廃止となった。
従来の老人性認知症疾患センターの機能の低迷は,急速に高まりゆく認知症高齢者の医療ニーズに対して,それに応需できるだけの人的資源や財政基盤の保障が十分になされてこなかったことによる部分が大きいものと考える。認知症疾患の鑑別診断や周辺症状・身体合併症に対する医療資源の不足は,認知症の保健医療福祉に携わる専門職や認知症高齢者を介護する家族であれば誰でもが皆強く実感しているところである。また,総合病院の認知症疾患センターには,従来から,認知症疾患の鑑別診断とともに,周辺症状や身体合併症への対応が強く求められてきたが,総合病院精神科の医療収益の低迷と精神科医師数の減少が,それを阻む重大な要因になっているのは明らかである。
こうしたことから,筆者は,平成19(2007)年度の厚生労働科学研究2)において,①旧来の総合病院型認知症疾患センターに求められてきた機能を明らかにするとともに,②日本老年精神医学会専門医を対象に「認知症疾患医療センター」に求められる機能と適正な配置についてアンケート調査を実施し,③わが国の認知症高齢者数の都道府県別将来推計値を算出したうえで,認知症疾患医療センターの必要設置件数を都道府県別に算出した。
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