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瞑想といえば,オウム真理教が連想されて,もう一歩踏み込むことが躊躇されがちな分野であるが,本書では瞑想を精神療法の一手段として真正面からとらえ,さまざまな立場からその理論的背景と有効性が真剣に論じられている。本書は2006年10月に東京で行われた第6回日本認知療法学会のシンポジウム「観照・瞑想・座禅のブレインサイエンス」で発表された内容に2,3の論文を加えて構成されたものである。前半で坐禅・瞑想に関する精神生理学的研究と脳画像の研究がレビューされ,止瞑想と観瞑想の生物学的背景の違いが論じられている。次いでパニック障害に対する瞑想を用いた治療,変性意識状態の精神病理と精神療法,仏教から見た坐禅の意味,死の臨床にみられる東西文化の違い,非定型うつ病が坐禅で改善した症例,弁証法的行動療法の解説,最後に精神療法としての瞑想の有用性と今後の発展の予想などそれぞれ興味深い話題がコンパクトにまとめられている。やや難解な仏教用語が出てくる部分もあるが,その章の著者がわかりやすく解説しており,全くの門外漢にして瞑想の精神療法としての可能性や瞑想研究の現在が概観できる貴重な書となっている。
本書に触発されてmeditation,psychotherapyをkey wordにMed Lineで検索してみると,驚いたことに1970年以来1,000編以上の文献がヒットし,特に最近5年間では350編を超えている。このように欧米では精神療法としての瞑想の有用性に対する関心が急速に高まっていることがうかがえる。行動療法を補完するものとして瞑想を取り入れた弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy)をはじめとするさまざまな精神療法の有効性が注目されたことがブームの一要因でもあるようだが,本書のなかで安藤が紹介しているように,すでに1977年にアメリカ精神医学協会の公式声明で精神療法としての瞑想の治療的可能性が指摘されており,欧米での瞑想研究には長い歴史があることがわかる。
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