書評
―長崎医専教授―石田 昇と精神病学
酒井 明夫
1
1岩手医科大学
pp.103
発行日 2008年1月15日
Published Date 2008/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101160
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読了直後の感想から述べてみたい。何よりもまず,受けた衝撃の大きさがある。人間存在の深淵を垣間見た思いがすると言っても決して大げさではない。本書の主人公のそれに比肩し得る人生などそうあるものではないだろう。
弱冠30歳で精神医学書を出版した優秀な精神科医,雄島濱太郎というペンネームを持つ才能あふれる文筆家,セルバンテスの名著『ドンキホーテ』の翻訳・紹介者,さまざまな治療改革を実践した長崎医学専門学校精神病学教室初代教授,米国医学心理学協会の名誉会員,第一等殺人罪で終身懲役に服する受刑囚,幻聴や緊張病症状を呈する統合失調症患者,これらは皆同一人物である。この人物,すなわち石田昇の生涯を目の当たりにするとき,我々はしばし言葉を失う。仙台で生まれ,熊本から東京,長崎を経て米国メリーランド州ボルティモア,そして再び東京へと戻る彼の足跡には何か強烈な力の場が支配しているかのようである。
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