現代のカルテ
SEX論争
野口 肇
pp.32
発行日 1964年5月1日
Published Date 1964/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202755
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とうとうたるSEXの解放時代です.本屋の店頭の半ばはほぼこれでしめられています.これに影響をうけて青少年の性犯罪がおこる.だから政府は悪書追放の名で言論の再統制にのりだす措置をとりかけています.
SEXといえば,そまつなザラ紙で有名無名の出版社がワンサとエログロ雑誌をだしたのは,敗戦直後でした.戦前の封建的な禁欲風潮にうんざりしていた大衆はこれらにとびつきました.SEXの解放がそのまま人間の回復とうけとられる空気がみなぎっていたのです.いちいち引例するには誌面もなくかつ衛生上わるいのでひかえますが,ヒドイ描写がたくさんありました.しかし文部省のお役人など昔ながらに謹直で,ご存じのロレンス「チャタレー夫人の恋人」をワイセツ罪で起訴したさわぎがありました.むろん原文は英語ですが,問題の描写など,たとえば「彼は彼女のもっとも彼女らしい草むら(bush)に分けいり,そして彼は彼女の中に埋まった……」といったようなもので,bushが陰毛の隠語だと知らない私たちには,いわばチンプンカンプンでした.ところがこの裁判でのわが国検察側の告訴状は,原作顔まけのいやらしいことばをつらね,むしろワイセツ文書は告訴状といってよいくらいでした.だがいまでは戦後のあるみじかい時期のエロ本とくらべ,そのドギツサは極度に達しています.
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