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はじめに
第二次世界大戦中にロンドン空襲の際,防空壕の中で椅子に長時間座ることを余儀なくされた人のなかに,肺塞栓症を起こし死亡する人が多発した.その後,防空壕に簡易ベッドを導入したところ肺塞栓症が激減したことにより,長時間の座位と静脈血栓症や肺塞栓症との関連が初めて指摘された1).その後,1946年にボストンからヴェネズエラへの14時間に及ぶ航空機旅行により下肢静脈血栓症を起こした症例が報告され,航空機旅行と静脈血栓症の関連が初めて指摘された2).さらに,1977年には航空機旅行に関連した肺塞栓症の症例が報告され,これをSymingtonらは“Economy Class Syndrome”(エコノミークラス症候群)3)と呼んだ.その後,1988年にCruick—shankらが,航空機旅行に関連した肺塞栓症の症例を報告し,再びこれをEconomy Class Syn—dromeと呼んだことにより4),広く知られるようになり,その後多数の症例が報告されるようになった.
Economy Class Syndrome(以下ECS)は,航空機旅行と関連した肺塞栓症のみを限定的に指すこともあるが,最近では肺塞栓症に限定せず航空機旅行に関連した静脈血栓・肺塞栓症全体を指すことが一般的である.また,同じような病態を主として米国では,“Coach Class Thrombosis”5)と呼ぶこともある.また,エコノミークラスのみならず,少数ながらビジネスクラス4,6)やファーストクラス6)での航空機旅行での肺塞栓症も報告されており,航空機旅行に限らず,船や電車,車での旅行でも肺塞栓症を起こしうることより2,3),旅行に関連した静脈血栓・塞栓症全体を“Traveller’s Thrombosis”(旅行者血栓症)と呼ぶこともあり7〜9),むしろ欧米では,最近はこの呼び方が主流になっている.
このように用語に混乱がみられるが,本稿では,ECSは,航空機旅行と関連した静脈血栓・肺塞栓症全体を指すものとして以下解説する.ECSについて,欧米では1977年のSymingtonら3)の報告以来,多数の報告4〜17)がありよく知られているが,わが国では,この病態はごく最近になってようやく認識されるようになり,報告もごく一部18〜22)にとどまっているのが現状である.われわれの病院は日本有数の国際空港に隣接する地理的条件により,ECSを経験することが多いので,本稿では一部われわれの知見20)を交えながらECSにつき解説することとする.
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