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はじめに
慢性呼吸不全とは,構造的あるいは機能的にガス交換が障害され,1ヵ月以上低酸素血症が持続する状態と定義される.各々の疾患では,生理学的には肺胞低換気,拡散障害,換気血流比不均衡などの病態が複雑に組み合わさり,低換気による高炭酸ガス血症を伴い,低酸素血症を呈する.慢性呼吸不全の基礎疾患は多岐にわたる.気道,肺,肺血管系の疾患だけでなく,神経系や呼吸筋の異常,また胸郭変形などもその原因となる.慢性呼吸不全の基礎疾患を,厚生省呼吸不全研究班の集計による在宅酸素療法施行患者の原因疾患という形で図1に示した1).わが国においては,慢性閉塞性肺疾患(COPD)が最も多く,ついで肺結核後遺症,肺癌,間質性肺炎などとなっている.この10年の流れからいうと,肺結核後遺症患者が高齢化することに伴い年々その割合が減少し,代わりに肺癌患者が,その母集団としての患者数の増加することにより,在宅酸素施行患者数が大きく増えている.COPDが慢性呼吸不全の原因の多くを占めている欧米での現状とは大きな違いがあることを認識しておく必要がある.
慢性呼吸不全を伴うほとんどの患者で感染,心不全,呼吸筋疲労などを契機とした慢性呼吸不全の急性増悪を経験し,それまでの維持機能が破綻し,生命の危機に直面する.図2に慢性呼吸不全患者の経過と治療を示すが,比較的安定している慢性状態の時に,どのような医療介入を行うか,何を目標に治療を行うかが重要な課題として指摘されよう2).この部分に,慢性呼吸不全患者の健康関連Quality of Life(QOL)評価という概念が重要となってくる.
QOLの評価に関する研究は,慢性疾患患者を対象とした研究を中心として展開されているが,多くの慢性疾患のなかでも,呼吸器系疾患はQOLの評価についての研究がもっとも盛んに行われている3).高血圧や糖尿病などと比較すると,COPDや喘息などの患者では,透析中の腎不全患者とならんで,病気により日常生活が強く影響を受けQOLが高度に障害されている.また,呼吸器疾患では,COPDをはじめとして,長期間にわたる進行性疾患が多く,一般に生命予後の延長のみが患者ならびに医療サービスの指標とはならないことがある.慢性の呼吸器疾患患者においては,QOLの障害を評価することに対するニーズが大きく,また実際に慢性呼吸器疾患がQOL評価におけるモデル的な疾患でもあったということが可能である.なお,QOLに対する日本語訳としては,生活の質,生命の質などが使用されることがあるが,共通して使用される的確な訳語はない.一般に,QOLとは,健康状態とは直接関係が乏しい,例えば経済状態,職業や住居などの要因が関与する包括的概念である.医学や医療の分野において,健康や疾病との関係を目的としてこの用語を使用する場合には,健康関連QOL(health-related quality of life)あるいは健康状態(health status)の用語が使用される.ここでは,医療サービスの領域での評価可能なQOLとして,健康関連QOLという言葉を使用する.
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