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American Thoracic Society(ATS)では呼吸器疾患の研究,発展に貢献した研究者を毎年,一人選び顕彰している.ATSが呼吸器病学の最大の国際学会であることからすれば呼吸器領域におけるノーベル賞といっていいのではないだろうか.表彰は総会で行われ,いわばショーとしての趣があり,選ばれた人は記念講演をする栄誉を与えられる.この賞としてトルードーメダルが授与される.トルードーはAmerican Lung Associationの初代会長であった.トルードーメダルは1926年に始まり戦時中も欠けることなくこれまで毎年,一人の学者を選び栄誉を称えてきた.1997年度はJA Nadel,98年度はRM Cherniack,99年度はPTMacklem,そして今年はJH Batesが選ばれているのをみてもATSの選考委員会の見識の高さを知ることができる.しかし,このトルードーなる人物がどんな人なのか何度もATSに出席しながらも恥ずかしながら私は知らなかった.
最近,いただいた「宿願の旅路」武市匡豊著(心泉社刊,2000年)はトルードーの足跡を克明に辿ったものである.Edward LivingstonTrudeau(1848-1915)は肺結核に罹患した兄を看とったあと兵学校を辞し,医師を志す.医学校を卒業,結婚.しかし,間もなく彼自身が重症の肺結核と診断される.トルードー,26歳.終日高熱が続くなか唯一の治療法であった転地療法に期待をかけて,その後トルードー研究所が建設されることになるアデイロンダックに家族とともに移住する.アデイロンダックはニューヨークの北,800キロにあり風光明媚ではあったが大変な辺地であった.ここで回復した彼は結核研究所を建設,さらにアデイロンダック・カッテージ・サナトリウムを建設する.1885年のことであった.サナトリウムには教会があり,小さな建物が散在する風景はさながらメーヨー・クリニックが次第に大きくなっていく様子に酷似している.38歳,コッホの論文を読み感動し,自ら研究者たらんことを目指し,研究室を立ち上げる.研究費はもちろん自分の努力で寄付を募らなければならない.共同研究者としてPh,D.を選ぶということも今日のアメリカにおける研究室のありかたの萌芽をみるようで興味深い.43歳,彼はコッホが発表したツベルクリンが結核の治療に有効であるとの説を否定する論文を発表し,結核菌を撲滅できると浮かれていた医学界に鋭い反論を行う.
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